「えっ……尊……!」
ざわめきが、一瞬で甘い悲鳴へと変わった。
……いや、そうだよね。
私は男の子だと思われてるし、蓮さんは学校のアイドル的存在。
もし私が女の姿だったら、多分今頃殺意向けられてるやつ……。
そして蓮さんは余裕たっぷりの笑みを浮かべたまま、さらに畳みかける。
「彩葉は俺のだから、あんまりグイグイ来られると困るんだよね。だから…取らないでね?」
「キャーーーーー!!!」
「蓮様がそんなこと言うなんて珍しい!」
「仲良しすぎ!!」
蓮さんの言葉に、教室が一瞬で悲鳴の渦にのまれた。
全部演技なのはわかっているけど……
「ちょ、ちょっと何考えてるんですか……!」
周囲が盛り上がっている中、思わず小声で抗議した。
本当に、何を考えているんだこの人は。
私の動揺なんて気にもせず涼しい顔で微笑んでいる蓮さん。
…顔が良いのが悔しいな。
表の顔しか見ていない状態なら、周りがキャーキャー騒いで王子様扱いする理由もわからなくもない。
「そーだよね、彩葉?」
蓮さんが静かに顔を寄せてきた。
誰にも聞こえない絶妙な距離で、笑顔を保ったまま静かに呟く。
「…黙って頷いてろ」
演じている笑顔とは正反対の温度に、胸がまた小さく跳ねた。
「お前に絡む奴が増えると護衛のことどっかでボロが出るかもだし人が集まってきてめんどくせぇんだよ。」
ここでようやく、今までの流れの意図を理解した。
……いや、意図はわかったけど、そこまでする!?
蓮さんは私だけに聞こえるよう、さらに声を落とす。
「……何、本気だと思った?」
「もう、揶揄わないでくださいよ…」
こうして蓮さんとの“幼なじみで超仲良し”という嘘設定は
わずか数日のうちに学校中へ完全に定着してしまい、
私たちは学校ではその関係を演じ続けることになってしまった。

