「……っ」
歯を噛みしめて、拳を握る。
好きだから触れた。
好きだから、取られたくなかった。
なのに──
結果はこれだ。
榛名が、「彩葉とキスしたことある」なんて言いやがって。
正直、あの時は頭が真っ白になった。
昔からの関係、やけに近い距離。
最近じゃあいつも遠慮がなくなってきてるのが嫌でも分かって、
……焦らないわけがなかった。
だから、我慢できなかった。
…でも、今彩葉を追いかけなかったら、
もっと取り返しがつかなくなる気がして。
俺は部屋を出て、夜の廊下を足早に進んだ。
もう彩葉の姿はどこにも見えない。
ウィッグも被らず、女子の姿のままで飛び出したはずだ。
こんな時間に、あの格好で。
それでもし誰かにバレたら……こんなの全部、俺のせいじゃねぇか。
胸の奥に、焦りが広がる。

