「傷、痛みますよね。貸してください」
躊躇なく踏み込むと、蓮さんは視線だけこちらに寄こしてくる。
拒むようでもない。でも、素直に任せる気もなさそうな沈黙。
「……自分でできる」
「できてませんよ」
蓮さんの指先がわずかに止まったその隙に、私は彼の手からそっと上着を取る。
「腕、少しだけ上げてください」
蓮さんは何も言わず、ふっと目線を逸らして、されるがままに肩を私の方へ預けた。
私はゆっくりと上着の袖を蓮さんの腕に通す。
傷に触れないように、慎重に、ゆっくりと。
手を離すと、蓮さんがボソッと呟いた。
「……ありがと」
…素直なのか、素直じゃないんだか。
その後、絢斗さんが運転する車に乗り込み、私たちは学校へ向かった。
蓮さんは窓の外をぼんやり見ていて、制服姿だと本当に普通の男子高校生に見えた。
…昨日あんな危険な目に遭ったなんて、嘘みたいだ。
「ここでいい」
学校の正門の近くで車が止まり、そう言って蓮さんが車を降りた。
私もドアに手をかけようとした時、運転席から絢斗さんがふと振り返る。
「蓮のこと、頼んだよ」
冗談みたいな言い方だったけど、その目は案外まっすぐで。
「……はい」
…私はこの信頼に、答えたい。
そう思いながら、私は蓮さんの後を追う。
「……お前、離れて歩けよ」
すると、蓮さんは振り返りもせず小声で刺すように言ってきた。
離れろと言われても…。
「同級生同士が、一定の距離空けて離れて歩いてた方がおかしくないですか?」
そう言い返すと、蓮さんは私が離れる気ゼロだと悟ったのかわずかに溜息を落とした。
「俺、外では敵を作らないようにしてる。だから、邪魔すんじゃねーぞ。お前が護衛なのも、バラしたら許さねぇからな」
蓮さんは片手で上着の袖を整えながら、淡々と言う。
そして校門をくぐった瞬間。
視線が一気に私たちへ吸い寄せられた。
……正確には、蓮さんに。

