「……別に誰も来ないだろ。来ても俺が誤魔化す」
そう言って、ドアの方を一瞥する。
…どちらにしろずっと男装しているのも疲れるし、言い訳も思いつかなかった。
覚悟を決めて、ゆっくりとウィッグに手をかける。
外した瞬間、頭が軽くなって、肩までの髪がさらりと落ちた。
窓の隙間から入ってきた夜風が、髪を揺らす。
「……ん。やっぱ、こっちの方が好き」
そんなふうに優しく笑われたら、胸がきゅっとなる。
「じゃ、俺…大浴場行ってくるから。彩葉は部屋の使うだろ?」
タオルを手に取りながら、蓮が言う。
「え、あ、うん……」
男子のふりをしてる以上、私は大浴場には行けない。
……なんだろう。
私よりも、私の男装の事情を理解している気がする。
蓮は部屋を出ていってドアが閉まった瞬間、ふっと肩の力が抜ける。
…蓮がいると落ち着かないし、今のうちに私もお風呂済ませとこ。
でも、湯気の中で髪を洗いながら今までの出来事を思い出してしまって…全然落ち着けなかった。
着替えを終えたその時、ドアの向こうから物音がした。

