翌朝。
窓から差し込む光は柔らかいのに、胸の奥は妙にざわざわして落ち着かない。
梓さんが用意してくれた朝食を終え、自室で制服の上着に腕を通した。
男装用のシャツの襟を整えて鏡の前でウィッグの乱れを直し、姿勢を正すとじっと自分の顔を見つめた。
大きく深呼吸をして、
「……よし。これでいける」
覚悟を固めてドアを開けた瞬間──
ガチャッ。
正面の部屋のドアが同時に開いて、蓮さんと目が合った。
数秒、沈黙が流れ…蓮さんが一言。
「……その制服」
「言ったじゃないですか。常時護衛だって」
そう返すと、蓮さんはあからさまに眉を寄せた。
パッと分かる。“気に食わない”の顔。
「学校行くだけだろ。必要ねぇよ」
いつもの素っ気ない声を残して、蓮さんはスタスタと歩き出した。
背中がもう、私の返事なんて聞いてませんって言っている。
ため息を落として、私は急いでその背中を追った。
蓮さんは洗面所の鏡の前で立ち止まると、ネクタイを適当に結び始めた。
指の動きは乱雑なのに、ひとつひとつが妙に様になっていて、思わず視線を逸らす。
「……昨日みたいなことがあっても、まだ同じこと言えるんですか」
問いかけても返事はなく、蓮さんはネクタイを締め終えると上着に手を伸ばした。
そして腕を上げた瞬間——表情がわずかに歪む。
「……っ」
…昨日の傷、やっぱり痛むんだ。
服の中に隠れて見えないけれど、私が手当した限りはかなり深かった。

