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目的地に到着した瞬間、バスの扉が開くのと同時に空気が変わった。
都会とは違う、少し湿った風。
遠くから聞こえる人の声と、どこか浮き立ったざわめき。
私は今、京都に来ている。
同じ日本なのに、街全体が少しだけ別の時間を生きているみたいで。
古い建物と新しい観光客が入り混じった、不思議な空気。
『本日から三泊四日、1日目は集団行動を基本とし、二日目からは自由行動を——』
引率の先生の声が、前方から流れてくる。
……けど。
正直、ほとんど頭に入ってこなかった。
蓮に言われた、“好き”の言葉も。
律との……キス、のことも。
どれも、まだ心の中で整理できていない。
なのに、修学旅行なんて一大イベントが容赦なく始まってしまった。
──しかも、何が気がかりかって。
まず、私は学校では「男子」として登録されている。
それは修学旅行でも例外じゃない。
名簿上の扱いも、部屋割りも、すべて。
つまり。
「……えっ、彩葉、蓮くんと同室なの!?」
「音葉、声大きいっ!」
思わず音葉の口を塞ぎそうになる。
そう。
私と、蓮は、同じ部屋。
「え〜少女漫画みたい、面白そう!」
「笑い事じゃないよ〜…」
想定はしていた。
していたけど。
でも、実際にこうして言葉にされると、心臓が追いつかない。

