蓮さんがじろりと私を睨む。
「……それは、こいつが初対面でいきなりズケズケ踏み込んできたから」
「嫌味ですか」
「嫌味だけど?」
絢斗さんは声を抑えきれずに笑った。
「あはは、なんか新鮮だな。」
絢斗さんが笑うと、蓮さんはむっ、と眉を寄せた。
「さっきから何なんだよ」
「蓮ってさ、外の人と話すときはデフォルトで好青年を演じる癖あるだろ」
なるほど。最初に感じた違和感は、そういうことか。
まあ……好青年には見えなかったけど。
蓮さんは黙って、ふいに私の方へ視線を寄こす。
「……あんなこと言ってきたのは、お前が初めてだわ」
真っ直ぐ見つめられ、胸の奥がどきっと跳ねた。
唐突でどう反応していいか分からず返事に迷っていると、車がゆっくりと停まった。
絢斗さんが振り返り、裏口を指さす。
「着いたよ。誰かに見られる前に、裏から部屋へ戻りな」
私はドアを開け、降りようとする。
その直前、絢斗さんが蓮さんに視線を向けた。
「…蓮、ありがとな」
「おう」
互いに余計な言葉はない。
…けれど、その一言に信頼がちゃんと乗っているのが分かった。
ドアを閉めると、夜風がひんやりと頬を撫でた。
蓮さんは、掴めなくて、読めなくて、分かりにくい。
だけど──さっきより少しだけ、この人のことが分かった気がする。
こうして、私の“神楽蓮の護衛としての初日”は終わった。

