そのキス、契約違反です。~完璧王子の裏側には要注意~





「まあ、なんでもいいですけど」


私は包帯を結び終え、ふと蓮さんの顔に目を向けた。

頬に小さな切り傷──さっきの混戦でできたものだろう。


手を伸ばした瞬間。


─パシッ。


蓮さんの指が、反射的に私の手首を掴んだ。

その瞳が刃物のように鋭く光って、思わず息を呑んだ。

けれど、数秒ののちにその光はすっと消え、いつもの蓮さんの表情に戻る。


「……あ、すみません。顔は自分で手当てしたいですか?」

「いや……そうじゃない」


掴んでいた手を離し、蓮さんは視線を落とす。


「……身内以外に急に近づかれると、反射で体が動くんだよ」

「あぁ……そういうことですか」


だとしたら、あの反応も納得だ。染み付いた防衛反応。
それなら無理に触れようとは思わない。

蓮さんは少しだけ視線をそらして言った。


「だから急に触るのはやめろ」

「わかりました」


このやりとりを聞いていたのか、運転席から絢斗さんがふいに笑い声を漏らす。


「でも蓮、珍しくずいぶん気を許してるみたいだね」

「は? 気なんて許してねぇよ」

「だってさっきまで大人しく手当されてたし。彩葉くんは神楽の外の人間なのに、普通に素で喋ってる」