「昨日、ありがとうね」
「昨日……」
「…蓮、いつもああなるんだ。しばらくは誰が声をかけても反応しないし、拒絶して……数日は、引きずる」
“ああなる”とは
呆然と立ち尽くしていた、あの時の蓮の姿のことだろう。
「だから…彩葉ちゃんに大人しく抱きしめられてる蓮を見て正直びっくりした。」
「あ、あれは何か…放って置けなくて、つい…」
その場にみんながいたから、見られていたのは分かっていた。
でも、改めて口にされると…じわじわと恥ずかしさが込み上げてくる。
「車に戻ってきた時も蓮の表情は穏やかに戻ってたし、家に帰ってからも、いつも通りだった。…みんな驚いてたし、感謝してる。」
「そんな、たいしたことしてないですよ」
「ずっとそばで見てきた俺達からしたら、たいしたことなんだよ。」
絢斗さんはふっと優しい笑みを浮かべた。
「蓮と仲良くしてくれてありがとう。これからも、よろしく頼む」
「……勿論です。」
笑顔でそう答えて、家を出た。
けれど心の中では、即答なんてできていなかった。
蓮と過ごす毎日は新鮮で、驚くほど楽しい。
仕事として始まった関係なのに、気づけば当たり前みたいに笑っている自分がいる。
……でも。
これは、任務だ。
任務が終われば、この関係も終わる。
長期任務とは言われているけれど、期限は決まっていない。
つまり──いつ終わっても、おかしくない。
護衛がいらなくなるのは、蓮に危険がなくなるということ。
それが一番、正しい。
……なのに。
終わりたくない、なんて。
そんな本音は心の奥に押し込めて、鍵をかけた。

