【side彩葉】
蓮さんが一連の出来事を淡々と語り終え、車内には短い静寂が落ちた。
何があってどうしてあんな事になったのか、理解はしたけど…
「……一人で来いって言われて、ホントに一人で行く奴がいます?!」
思わず声が上ずった。
怒鳴ったつもりはなかったけど、気持ちが先に走った。
蓮さんが不満げに眉を寄せる。
「仕方ねぇだろ。条件がそうなんだから」
「せめて一言報告してください。今回、俺が気づいてなかったら……どうしてたんですか」
蓮さんは黙ったまま、視線をそらした。
叱られて拗ねる、なんて子どもっぽさじゃなくて。
“返せる言葉がない”って沈黙だった。
……ホント、気づいてよかった。
今日が初日で、まだ蓮さんの癖も行動パターンも掴めていないのに。
もしあの時気づかなかったら…そう考えるだけで背筋が冷える。
沈黙の後、蓮さんが小さく息を吐いた。
「……はぁ。さっき、見た目で判断して悪かった」
「え」
「こんなほっそい身体で、お前よくあれだけの数相手できるな。ビビったわ」
蓮さんはそう言って、ほんの僅かに口元が緩む。
その笑みは、妙に自然で……
さっきまでの警戒とは違う温度を持っていた。
でも、これで私の強さを理解してくれたよね。
護衛の件も…
「でも俺は常時護衛なんていらねぇからな」
「…いや今そういう感じでした!?」
さっきのやりとり、完全に“信頼された”流れだったじゃん。
危険な目に遭った直後でも、まだそんなことを言うのか。
そして蓮さんは私の混乱なんて気に留めもせず、目線だけを寄越した。
「……ただ、そばには置いてやる」
……なんでそんな上から目線なんだろう、この人。
とはいえ、嫌われているわけではないらしい。
少なくとも排除はされていない。それだけでも、ひとまずは十分だ。

