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神楽組の屋敷に戻ったのは、もう夜も深くなってからだった。
車を降りた瞬間の冷たい空気が肺に入ると、ようやく現実に戻ってきた気がする。
絢斗さんと蓮は組のことでまだやることがあるらしく、
私は「先に戻ります」とだけ伝えて、ひとり屋敷の中へ入った。
長い廊下を歩きながら、無意識に首元へ指が伸びる。
……まだ、じんわりと熱が残っている気がして。
「……だめだめ」
小さく呟いて、首を振る。
あれは……たぶん、混乱してただけ、全部が重なった結果で。
そう言い聞かせても、胸の奥は落ち着かないままだった。
部屋に入って、灯りをつける。
さっきまでの出来事が嘘だったみたいに、
時計の針の音だけが、響いている。
ベッドに腰を下ろした瞬間、張り詰めていたものが一気にほどけて、どっと疲れが押し寄せてきた。
体育祭に打ち上げ。
それだけでも十分すぎるほど色々あったのに。
「……無理。動けない」
背中からベッドに倒れ込んだ。
血の匂い。
割れたグラス。
慣れてるはずなのに、今日はどうしてか落ち着かない。
考えないようにしようとするほど、
頭の奥に沈めていた映像が、勝手に浮かび上がってくる。
そのまま、意識がゆっくりと沈んでいった。

