「……彩葉」
ぽつりと、静かに呼ばれた。
「………本当は、こんなことしたくねぇんだ」
その声は、あまりにも苦しそうで。
「“若頭”なんて…周りが勝手に言ってるだけで」
ぎゅっと、私の服を掴む感触。
初めて見る、弱さ。
「本当は…俺、親父を継ぐ気なんてねぇし、誰も殴りたくねぇ。
ヤクザも、自分も、大嫌いだ」
その言葉に、胸が痛くなる。
蓮は、最後の最後まで、店主に選択肢を与えていた。
大人しく捕まるという選択肢。
本当は暴力なんてしたくなかったから。
それでも、仲間を傷つけられたことで、蓮のリミッターが外れてしまった。
「向いてるんだろうな。…おれ、こうやって生きていくしかねぇのかな」
そんなことないよ、とか、そんな軽いセリフは言えなかった。
神楽組に生まれて、
生まれた瞬間から、進む道を決められて。
きっと、何度も言われてきたんだ。
──でも、私は神楽組じゃない。
ただの、護衛。
だからこれはきっと私にしか言えない。私は蓮の味方でいたい。

