そのキス、契約違反です。~完璧王子の裏側には要注意~




「……蓮」


駆け寄って名前を呼ぶと、ほんの一瞬だけ蓮の肩がぴくりと揺れる。

でも、蓮は振り返らない。


「来るな」


低くて、掠れた声。


「…こんな姿、見せたくなかった」


……蓮。


それでも、私は何も言わずにもう一歩踏み込んだ。


そして──

そのまま、後ろから蓮を抱きしめた。


「……っ」


一瞬、蓮の体が強張る。


「やめろ…お前まで血で汚れる」


振り返って必死に私を引き剥がそうとする。

でも私は、さらに腕に力を込めた。


「放っとけよ!」

「今放っておいたら、ダメな気がする」


その手が震えていることに、気づいてしまったから。

蓮はため息を吐いてから、一言。


「……俺のこと、怖くねぇの」


……正直に言えば。

さっきの蓮は少しだけ怖かった。
理性が切れた瞬間の、あの目。


でも、それは蓮の“全部”じゃない。


優しいところも、不器用なところも、ちゃんと知ってる。


「私を誰だと思ってるの。危ない人とか、危険な場面とか、昔から慣れっこだよ」


安心させるように、軽く笑って言う。

蓮はしばらく黙っていたけど、私が離す気がないのを察してか、

蓮の身体が、ぴたりと止まった。