そのキス、契約違反です。~完璧王子の裏側には要注意~





絢斗さんは一度だけ蓮の様子を遠目に確認すると、すぐに視線を外して淡々と指示を飛ばし始めた。


倒れている店主を運ぶ人。
拘束した従業員たちを外へ連れ出す人。
床に散らばった銃や証拠を回収する人。


神楽組の人たちは無駄な言葉も動揺もなく、流れるように後始末をしていく。




まるで、こういう光景が“日常”であるかのように。

誰も、蓮に声をかけない。



………たぶん、これは一度や二度のことじゃないんだ。

きっと今までも、何度も。


蓮はその場に立ったまま、微動だにせず俯いていた。


拳は、まだ固く握られたまま。
指先には血が付着していて、それをぼんやりと見つめている。


肩が、小さく上下している。

……呼吸がまだ整っていない。

 
血は、頬を伝って顎の先まで落ちていた。

それが自分のものなのか、相手のものなのか…
そんなこと、もうどうでもいいみたいに。


その姿を見て、胸がぎゅっと締め付けられた。



さっき、思ってしまった。


………10歳の頃の私と、


似ているって。



全部が終わったあと、血と静けさだけが残った場所で、

ひとり、呆然と立ち尽くしていたときの私と、同じ。



あの頃の私は誰にも止めてもらえなかった。
誰にも、抱きしめてもらえなかった。


蓮の気持ちが、痛いほど分かる。


……だから。

……放っておけるわけ、なかった。