【side 蓮】
静まり返る屋敷。
廊下の灯りも落ち、時計の針の音だけが耳に響いていた。
俺はワイシャツの上に黒いパーカーのフードを羽織り、ポケットから折り畳まれたメモを取り出す。
『今夜1時、港の倉庫。1人で来い。』
その下には、俺の唯一信頼する神楽組のメンバー…絢斗が縛られた姿の写真が貼られていた。
学校から家への道のりは、いつも絢斗が送迎の車を出してくれるし必ず連絡を入れてくれる。
…でも今日は連絡がなく、メッセージをしても電話を鳴らしても返答がなかった。
だから、胸騒ぎがしながらも歩いて帰っていたら、通りすがりの男にいきなりこのメモを渡された。
フードをかぶっていて見えなかったけど、恐らくこのメモの主の仲間だろう。
俺は、簡単に人を信頼しない。
けれど、絢斗だけは別だ。兄のように慕い、大事に思っている。
…だから、
「……行くしかねぇだろ、こんなの」
俺はメモを握りつぶし、静かにドアを開ける。
目の前のドアを見て一瞬足を止めた。
外出時は連絡しろって言われてるけど…
「……ま、あいつに頼る気なんてさらさらねぇからな」
屋敷の影に紛れ、裏門から屋敷を抜け出した。
錆びた鉄扉の軋む音に夜風に揺れる紙くずの音。
照明はほとんどなく、虫の羽音だけが微かに響いている。
指定場所へ着いた俺は足音を殺し倉庫へと近づくと、中から笑い声や足音、鉄の擦れる音が漏れていた。
扉に手をかけ中を除けば、薄暗い倉庫の中木箱が積まれた中心に絢斗が縛られて座らされている。
顔の横には微かに血がつき、荒い呼吸をしている。
「……絢斗…!」
俺に気づいた絢斗が顔を上げ、目を細めた。
「蓮……?ホントに来るなんて、馬鹿なのか!?」
俺は歩みを止めず、冷たい声で答える。
「この状況を知ってて来ないわけねぇだろ」
その瞬間、倉庫内の男たちがニヤつくように俺を見た。
手前にいる男が笑いながら鉄パイプを握り、別の男たちは刃物や棒を手に壁際に構えている。
「おやおや……お坊ちゃんがホントに一人で来たぞ」
「“神楽の後継様”がこんな簡単に引っかかってくれるとはな」
…黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって。

