『ウチのシマに、裏切り者がいた』
『そいつが情報を流してたせいで、怪しい動きが増えてる』
『実際、組の奴らにも被害が出てる』
状況を何も把握していない私を気遣って絢斗さんが改めて説明してくれたけど、要するにこれがさっきの通話で蓮に話した内容らしい。
神楽組のシマの繁華街。
その奥に、敵に情報を流していたスパイの店が見つかったらしい。
取引現場を押さえ、盗聴の証拠も揃った。
これ以上被害が出る前に潰すんだと。
…私もそれなりに裏社会に関わる任務も経てきているから何となく状況は理解した。
こういう世界の人たちは、裏切り者を許さない。
「創さんの指示で…“蓮に行かせろ”って」
「……はぁ。どうせ拒否権ねぇんだろ」
蓮は諦めたようにため息をひとつ。
絢斗さんが助手席から紙袋を取り出して、後ろに放ってよこした。
「とりあえず着替えな」
蓮は無言でそれを取り出すと、中には黒のスーツ一式。
慣れた手つきで制服の上からズボンを履き、ブレザーを脱いで黒のジャケットに袖を通す。
黒のネクタイを締めた瞬間、空気が変わった気がした。
いつもの蓮じゃない。
柔らかい表情も、気だるそうな雰囲気も消えている。
さらに大人びて見える蓮に思わず見惚れてしまって、絢斗さんに名前を呼ばれてはっとする。
「彩葉ちゃんも、その制服はまずいな」
「ですよね……」
「スーツは一着しかないし……あ」
そう言って、別の袋から取り出されたのは赤いロング丈のワンピース。
肩から胸元が大きく開いていてドレスに近い形で、少しだけ光沢がある。

