【side彩葉】
不意に、耳慣れた着信音が鳴った。
一瞬、自分のスマホかと思ってポケットに触れかけて──違う、と気づく。
隣に座っていた蓮が、静かにポケットから携帯を取り出していたから。
蓮が画面を見たその一瞬。
ほんのわずかだけど、表情が変わった気がした。
「……絢斗?何。……まだカラオケだけど……」
一瞬の沈黙のあと、蓮の声のトーンがすっと落ちる。
「……何かあったのか」
周りのクラスメイト達は相変わらず騒がしくて、誰も蓮の変化には気づいていない。
でも、隣にいる私には分かった。
“神楽組”関係できっと何かあったのだと。
蓮はそれ以上声を荒げることもなく短く相槌を打ちながら話を聞いていたけど、通話が終わった頃には、さっきまでのゆるい空気は完全に消えていた。
「ごめん。俺、急用できたから先に帰るね」
立ち上がった蓮はいつもの表情に戻って、みんなの方を見て言う。
「え〜!?もう帰っちゃうの?」
「今から良いとこじゃん!」
あちこちから引き止める声が飛ぶけど、蓮は困ったように笑うだけでもう鞄を手に取っていた。
「ほんとにごめん、また今度ね?」
……って、待って。
蓮が帰るなら私も一緒に行かなきゃ。
最近はどこか行く時ちゃんと声をかけてくれるのに、
今日は珍しく何も言わずに出ていこうとしている。
嫌な予感がして、慌てて立ち上がった。
「ごめん!俺も急用!」
引き止めてくるみんなに適当に笑って誤魔化しながら、私は蓮の背中を追いかけた。

