そのキス、契約違反です。~完璧王子の裏側には要注意~





「……痛かったら、言ってください」

「消毒ぐらい痛くねぇよ。慣れてる」


そう言いながら、蓮さんの視線が私の手元に落ちる。
血を拭うガーゼを見つめたまま、小さくぼそりと呟いた。


「……でも、ありがとな。お前がいなかったら、マジでやられるとこだったかも」


思わぬ素直な言葉に、思わず顔を上げた。


「…そう思ってるなら、黙って出ていくのはやめてください。護衛を任された以上、蓮さんに何かあったら俺の責任になるんですよ」


創さんには信頼されて任されている。だからこそ、無茶をされると困る。

そう言うと、蓮さんは不機嫌そうに目を逸らした。


「説教かよ。絢斗(あやと)みてぇなのがまた増えたな」


絢斗…?

そして蓮さんは運転席の方に視線を向けると、前の席から言葉が返ってきた。


「今回の事は俺のせいだ…すまなかった。俺が油断した」

「謝る必要ねーよ。悪いのは全部あいつらだし」


その言葉に蓮さんが短く返す。

私は前の席に声をかけると、バックミラー越しに視線が合った。


「あの……貴方は?」

「俺は 凪浜 絢斗(なぎはま あやと)。俺も神楽組だよ、蓮より七つ歳上。君は今日から蓮の護衛の……桜庭彩葉くんで合ってるよね?」

「あ、はい」

「さっきは本当に助けてくれてありがとう。創さんから噂は聞いてたけど……君、ホントにめちゃくちゃ強いんだね」


…まあ、これが私の仕事だし…。

でも、あの現場を見た限りは正直蓮さんも相当強かったと思う。


「……さっき、何があったんですか?」


私が尋ねると、蓮さんも絢斗さんも黙ってしまった。

絢斗さんがミラー越しに蓮さんへ目配せすると、蓮さんはやがて肩を落とすように小さく息を吐いた。


「……親父には言うなよ」


伏せた視線の先に、濃い影が落ちている。

蓮さんは呟き、さっきまでの一部始終を語り始めた。