そのキス、契約違反です。~完璧王子の裏側には要注意~






低く息を呑む音がして、

振り向くと、岬さんが扉の前に立ち尽くしている。


手に持ったハンカチを握りしめたまま、ただ、動けずにいた。



視線だけが、私の濡れた前髪と手に持ったウィッグを、ゆっくりとなぞっていく。


風の音だけが、やけに大きい。



……ど、どうしよう!?



一気に頭が真っ白になる。

誤魔化せる状況じゃない。
言い訳も、取り繕う言葉も、何ひとつ思いつかない。


「あ……えっと……」


情けない声が、喉からこぼれた。

岬さんは一歩だけ、慎重に距離を詰めてくる。


「……え、女……の子……?」


確認するみたいに、ゆっくりと呟く。

その声音は問い詰めるようなものではなくて、ただ、困惑と戸惑いだけが滲んでいる。


…………もう、正直に話すしかない。


「……隠してて、ごめん」


一度、ぎゅっと拳を握ってから、息を吸う。


「事情があって……男の子のフリしてるんだ」


岬さんはしばらく黙っていた。

怒っているわけでも、笑っているわけでもない。


「……全然、気づかなかった」


ぽつり、と零れた言葉に、思わず瞬きをする。


「お願い。このこと……みんなには黙っててほしい」


恐る恐る言うと、岬さんはすぐに頷いた。


「うん。言わないよ。…何か、事情があるんでしょ?」


即答だった。

それから、少し考えるように首を傾げる。