「え、…桜庭くん…!?」
背後から聞こえた、岬さんの動揺した声。
その一瞬、振り返りそうになるのを堪えて、私は目の前の男を睨みつけた。
濡れた前髪の隙間からでも、はっきり伝わるように。
男の肩が、ぴくりと跳ねる。
「この子、嫌がってるんだけど。……わかる?」
一瞬、場の空気が張りつめる。
さっきまでの軽薄な笑いは消えて、男たちは顔を見合わせた。
「……は?お前誰だし」
「邪魔しないでくんねー?」
そう言いながら、私の横をすり抜けて再び岬さんに近づこうとする男達。
だから、反射的に足が動いた。
壁を蹴るようにして、男達の進路を塞ぐ。
……あーもう。
この距離なら、一発蹴り入れるの簡単なんだけど。
衝動が喉元までせり上がるのを、ぎりぎりで抑え込む。
ここは任務中じゃない。
騒ぎを起こす場所でもない。
…できるだけ、穏便に…。
「これ以上続けるなら店員呼ぶけど。それでも足りないなら…警察な」
目を逸らさず、はっきりと言い切る。
「……チッ」
「めんどくせー」
舌打ちと悪態を残して、男たちはぞろぞろと廊下の奥へ消えていった。
……ふん。
こんな脅しで引くくらいなら、最初から絡むなって話なんだけど。
廊下に、ようやく静けさが戻る。
「……大丈夫?」
振り返ると、岬さんは少し目を見開いたまま私を見ていた。
驚きと、安堵と、少しの照れが混ざった顔。
でも次の瞬間、ぱっと笑顔になる。
「桜庭くん、かっこよすぎ。」
その笑顔を見て、ようやく肩の力が抜けた。

