カラオケの廊下は部屋の中より少しだけ静かだった。
扉一枚隔てるだけで、さっきまでの騒がしさが嘘みたいに遠くなる。
…みんなで盛り上がるのは、別に嫌いじゃない。
でも今日はずっと気を張りっぱなしだったし、正直ちょっと疲れた。
体育祭で人が多かったせいもあるし、何より──あの時、視界の端に映った“怪しい人影”の正体が分からないままだ。
……何も起きなかったからいいものの、もし本当に狙われていたのだとしたらと思うと…。
廊下の壁に背中を預けて、小さく息を吐く。
……それに。
「…蓮のあれ、本気なのかなぁ………」
思わず、独り言みたいに零れてしまった。
──“「…俺、絶対お前を落とすから」”
冗談っぽく言っていたわけでもない。
かといって、軽いノリとも違う。
もし本気でそのつもりなら、私の心臓はいくつあっても足りないよ……。
……というか、なんで私に?
考え始めると、胸の奥がそわそわして落ち着かなくなる。
「桜庭くん?」
後ろから名前を呼ばれて、びくっと肩が跳ねた。
慌てて振り向くと、廊下の照明の下にクラスメイトの女の子が立っていた。
視線が、ばちっと合う。
……危ない。
気を抜いていると、すぐ顔に出る。
彼女は 岬 音葉さん。
同じクラスで、いつも明るくて誰とでもすぐ打ち解けるタイプ。
サラサラのボブヘアに、柔らかい雰囲気。
一見サバサバしてそうなのに、話してみると意外とふわふわしてる印象がある。
「……あの、さ」
岬さんは少し視線を泳がせてから、意を決めたみたいに私を見た。
「今、ちょっと良いかな?」
「え? う、うん」
断る理由もなくて頷くと、岬さんは一歩だけ近づいてきた。
廊下の白い照明の下で、その表情がはっきり見える。

