左側に視線を向けると、蓮さんも息を整えるようにシートに背を預けていた。
肩口のワイシャツが破れ、乾きかけた血が滲んでいる。
「……っ、待って。今、手当てするから」
幸い車内には常備の救急箱が置かれていたので急いで手に取って蓮さんに声をかけると、面倒くさそうに視線だけをこちらへ向けた。
「いや、別にいい。帰ってから自分で──」
「よくないです!これ、絶対深い」
手首をそっと掴むと、触れた瞬間、蓮さんはわずかに目を見開いた。
じっと見つめれば、観念したように短く息を吐く。
「……わかったよ。勝手にしろ」
そう言って、蓮さんはワイシャツのボタンをひとつずつ外していく。
「え?」
「んだよ」
「えっ、ちょ、ちょっと待って!?なんで脱ぐんですか……?!」
「なんでって……手当てするつったのお前だろ。着たままじゃ出来ねぇじゃん」
「……っ、それは……た、確かに……!」
言い返している間に蓮さんはワイシャツを肩まで滑らせ、上半身を露わにした。車内の薄暗い照明が、汗と血に濡れた肌を照らし出す。
想像以上に鍛えられた腕や腹筋が視界に飛び込んできて、思わず目を逸らした。
私は、戦闘慣れはしているけど、男慣れはしていない。
だから、…目のやり場に困る!!
いやいや落ち着け私。今は男として潜り込んでるんだから…。
「何固まってんだよ。ほら、早く」
蓮さんが不思議そうに眉を寄せた。
怪しまれる訳にはいかないので私は一度だけ深く息を吸い、仕事として割り切ろうとプロの顔に切り替えて消毒液を手に取った。

