裏社会には──裏社会を取り締まるための、もうひとつの組織がある。



非合法でありながらも、表と裏の間を取り持ち争いを鎮め、被害を最小限に抑えることを目的とした組織──《Aegis(イージス)》

その存在は、政府からも“黙認”という形で認められている。


護衛、潜入、暗殺。依頼の内容は問わない。

ただひとつ「秩序を守る」こと、それがAegisの絶対的な使命だった。



今回、私に下された任務は…表向きは名門財閥、裏では名の知れた名家《神楽組(かぐらぐみ)》の跡取り息子の専属護衛。



護衛任務は何度も経験してきたけど、住み込みでの長期任務はこれが初めてだった。

Aegisの中でも私は功績トップ。
神楽組の当主からわざわざ名指しで依頼が来たらしい。


──ただし、条件付きで。


「息子は護衛を嫌がる。ましてや女ならなおさらだ。だから“男子として”依頼を受けてほしい」


……はっきり言って、無茶にもほどがある。


身分や性別を偽る任務は正直あまり得意じゃない。
男装して共同生活なんてバレるに決まってる。


だから断るつもりだった。

けれど、提示された報酬額の桁を見た瞬間、心が少しだけ揺らいでしまった。



──この任務を成功させれば、しばらくは別の仕事を受けずに済む。



そう思った私は、気づけば契約書にサインをしていた。







ここから、長い任務が始まる。

そしてこの任務が私の人生を大きく変えることになるなんて。
そのときの私は、まだ知らなかった。