「お兄ちゃん!」
震え混じりの叫びが鼓膜を揺する。
この世で唯一、深みへと沈んだ俺に届く声。
手を止めて視線を転ずれば、祥が怯えたように目に涙を溜めていた。
「祥……」
「お兄ちゃん、もうやめてよ……こわいよ」
こわい
その一言に、心臓がツキンと鋭い痛みをおぼえる。
祥を守ろうとした行動が、恐怖を与えるものになっていたというのか。
それではピエロたちと同じじゃないか。
そんなのいけない。
王子様はいつだってお姫様を安心させる存在でないといけないのに。
鈍器を捨てて祥を抱きしめる。
逃げてしまわないように捕まえないと。
「祥、ごめん。やりすぎたね。祥のことを狙っていたから頭に血が上っちゃって」
「ピエロ…死んじゃったよ。死んじゃったのに、ここまでする必要ないよ…」
ピエロの亡骸を見る。
顔面が集中的に潰れ、原型など無くなっていた。
床に転がった眼球だけがこちらを向いている。
この光景に対してなんの感情も湧かないけど、祥は心が優しいからきっと胸が痛むのだろう。
「ごめん。止めてくれてありがとう」
頭を撫でて謝罪する。
殺意を向けてきたものにその殺意を返すことは間違っているのだろうか。
失う覚悟も無いのに、俺の祥を奪いにこないでほしい。
俺の感情が振れるのはいつだって祥だけ。
守るためになんだってするのは、祥のことを愛しているからだ。
祥は、違うのかな。
「…怖かったしやりすぎだけど、うん、命は救われたんだもんね。助けてくれてありがとう、お兄ちゃん」
白塗りの顔が儚く笑う。
それは間違いなく俺のことを愛している笑顔だ。



