「お、お兄ちゃん、これからどうする?」
控えめな声に視線を向けた。
俺の腕の中で小さくなるお姫様。
一生このままでいられたらいいのに。
「そうだね…うちは学校自体が大きいから、どこにいこうか迷っちゃうよね。けど一つだけ決めていることがあるんだ」
「決めていること?」
「うん。別棟にはいかない」
雨川高校には本校舎の他に別棟がある。
長い渡り廊下を進んだ先にあるそこは、普通科の俺たちには縁が無い、工業科や商業科が使用する専門的な部屋ばかりだ。
履修科目によっては足を踏み入れることもあるが、ごく稀なことだ。
3年の俺ですらそこまで思い入れのない場所である。
「俺たちは別棟についてよく知らない。それこそ、間取りや置いてある器具なんかめっぽうだ。慣れない場所を探すのは想像よりもかなりの体力を使うからね。それにもし鬼に見つかったとき、全体的な配置を知らないのは致命的だ」
あるていど勝手を知る本校舎一点集中で、徹底的に失くしモノを探す
という算段だ。
「わかった…お兄ちゃんがそう言うなら頑張ってみるよ。けどさ、もし別棟に失くしモノがあったらどうする…?失格になったら私たち死んじゃうんだよね…」
至極あたりまえな不安をこぼす祥に笑いかける。
「お兄ちゃんを信じて?根拠は無いけどね、絶対に大丈夫だと思うんだ」
とんがり帽をふわりと撫でて、頬と頬をくっつける。



