「橋本!」
背後から飛んできた若松先輩の呼び声に、お兄ちゃんは足を止めゆっくり振り返る。
険悪な雰囲気の王子様とジョーカーの視線がぶつかった。
「なんだい?勝手に連れて行くなって?」
「…あぁ、そうだ」
「ずいぶんと素直じゃないか。そんなに祥のそばにいたかった?」
口の端を持ち上げるお兄ちゃんに、若松先輩が拳を握り締める気配がする。
「若松もみんなも、なにを勘違いしているのか知らないけど、祥は君たちのピエロなんかじゃないから」
「黙れ」
「祥は俺だけのお姫様だよ」
「黙れ!」
青筋を立てた若松先輩が大股でこちらに歩いてくる。
私めがけて伸ばされた手が、触れる直前で叩き落とされた。
刹那、お兄ちゃんの腕の中に強く抱き込まれる。
「祥は誰にも渡さない」
絶対零度の眼光。
「奪おうとするなら、君だって殺すよ、若松」
吐き捨てた王子は、そのまま多目的室を去った。
最後に見たジョーカーの顔は
ぎょろりと目を剥いた恐ろしいものだった。
入る隙のない応酬を、私は黙って見ているしかできなかった。



