Forgiving~英国人実業家は因習の愛に溺れる~


 目の前にはケネス──それも、怒ったケネスがいる。

 その迫力に押されて、あかねは肩を狭めた。なにか怒鳴られるかもしれない。いつもの彼はそんなことしないけど、今ばかりはそんな気がして、あかねは緊張していた。

 しかし。

「大丈夫だったか?」
 彼の声は優しかった。あかねはほっとして、緊張を解いた。

「うん、ちょっと声を掛けられただけで……たぶん、彼はシャンパンで酔ってたんじゃないかな」

 ケネスは首を振った。

「奴はずっと最初からお前のことをチラチラ見てたよ。隙あらばとお前が一人になるのを待ってたんだろう」
「え」

 そんなこと、全く気がつかなかった。
 それどころか、ケネスが一人になるのを待っている女性を、何人も見つけたけれど。

 ケネスはしばらくあかねの前に立って彼女を見下ろしたあと、片手を差し出してきた。優しい仕草だったので安心して、あかねは彼の手を取る。二人は手をつないだ。

「もう帰ろうか」

 ケネスは提案した。あかねはうなづく。

「うん」
「家に帰る前に、少しだけ寄っていきたい場所があるんだ。いいか?」

 再び、あかねはうなづいた。
 柔らかい夕方の木漏れ日に照らされた灰色の砂利道を、二人はゆっくりと歩いて、駐車場まで進んだ。