Forgiving~英国人実業家は因習の愛に溺れる~


「あ、あのねっ、今日は佳苗さんのドレス選びに付き合ってたの。佳苗さん、日本人にしてはすごく背が高いし、どのドレスもすごく似合ってて羨ましかったなぁ」

 なにか他のことを考えたくて、あかねは適当に喋り出した。
 あまり賢い話題選択ではないかもしれないけれど、ケネスは真剣に聞いていてくれた。

「式はいつだった?」
「再来週の日曜日。ケンも来られる?」
「俺も招待されているならね。空けておくよ。ちょうどいい」

 その時、注文したコーヒーがケネスの前に届けられた。

「ちょうどいい?」

 あかねは聞き返した。ケネスは少し、しまった、というような顔をする。

「Nothing」
 ケネスは素早くそう答えて、その後に小声で付け足した。「Anything」

 細かいニュアンスがよく分からなくて、あかねは首を傾げた。しかし、ケネスにそれを説明する意思はなさそうだった。彼はコーヒーを啜ると、話題を戻す。

「それで、その結婚式の時間帯は?」
「ちょうどお昼頃に神父さんが来て、式を挙げて、その後みんなで遅めのランチをとりながらパーティーをするんだって。招待状には11時半から3時ってあるけど、終わりまでいたらきっと夕方になるんじゃないかな」

 あかねが答えると、ケネスはしばらく黙ってじっとあかねの顔を見ていた。
 その視線があまりに真剣で、あかねはつい自分の顔に異常がないか気になって、片手で頬と口元を触って確認した。よかった、スコーンが付いているわけではなさそうだ。

「じゃあ、その夕方から夜まで、空けておいてくれ」

 ケネスは言った。
 あかねは反射的にうなづいた。

「う、うん……大丈夫、だけど」

 すぐ、理由を聞きたくなったけれど、ケネスの視線があまりにも真面目で、口を挟む気にはなれなかった。そのせいか、気がつくとあかねは結婚歴云々の話をすっかり忘れていた。