暦の上ではもうすぐ春といっていい季節なのに、ロンドンはまだまだ暖かさにはほど遠かったから、カフェに入ってきたケネスもまだ、コート姿だった。
長身の彼がベージュのコートを羽織っている姿はなかなか魅力的で、すぐ近くに座っていた白人女性が物欲しそうな視線をケネスに投げかけるのを、あかねは見てしまった。
「待ったか?」
あかねを見つけるなり、ケネスは真っ直ぐ大股で進んでくる。
「ううん、大丈夫。早くてびっくりしちゃった。お仕事よかったの?」
ケネスは、あかねの前の席までくると屈み込み、彼女の頬に優しくキスをした。
あっという間にあかねの頬がほてる。
それを見てケネスはいたずらっぽく微笑んだ。この挨拶のキスに、あかねはまだ慣れない。受けるのはなんとか普通にできるようになったけれど、自分からするのはまだ恥ずかしかった。
あかねの前に座ったケネスは、コーヒーを注文し、前に向き直った。
すぐ横の女性はまだケネスをうっとりと見つめ、続いて、あかねの方には嫉妬と軽蔑が混じったような視線を送ってきている。これも珍しいシチュエーションではなかった。
そう、モデルのような典型的な美形とは少し違うかもしれないが、ケネスは魅力的だ。
男としての香り立つなにかが、彼にはある。色気とでもいうのだろうか。そう……異性を引きつけるなにかが。
つまり、彼があかねと付き合う以前もずっと一人だった可能性はかなり低く、結婚はともかく、フィアンセくらいはいたかもしれない……ということだ。
どうして今まで考えた事もなかったんだろう。


