Forgiving~英国人実業家は因習の愛に溺れる~


 それからさらに数着を試着して、佳苗は結局、一番最初に着たドレスを選んだ。
 二人はブティックを出ると、すぐ近くにあった洒落たカフェで紅茶を飲みながら、再来週に迫っている佳苗の結婚式についてしきりに語り合った。

 もうすぐ式だというのに、佳苗は紅茶と一緒にスコーンを二つも口に放り込んでいる。

 あかねは、彼女のこうしたサバサバした性格が好きだった。
 一人っ子だったあかねには、佳苗はまるで急にできた姉のような存在で、彼女の結婚を心から祝福している。

 話は弾みに弾み、気が付けば時間は午後六時半を回っていた。
 佳苗は携帯電話で時間を確認すると、顔を上げる。

「あーあ、そろそろ帰らなきゃ。わたしは地下鉄(チューブ)使って帰るけど、あかねちゃんも来る? 途中まで同じ方向だよね」
「そうしたいけど……ちょっと待って。確認してみるね」

 あかねは急いで携帯を開き、ケネスにメッセージを送った。日本でずっと使っていたタイプのメッセージアプリはこちらではあまり人気がなく、少し使い勝手の違う別のアプリ経由だ。

 返事はすぐに来た。

「I'll finish my work in 5 minutes, and I will pick you up. Wait for me there」

 あかねが携帯の画面をじっと見ていると、佳苗がそれを覗き込んできて、ニヤニヤと締まらない笑いを見せた。

「相変わらず過保護ねぇ。そこで待ってろですって」
「う、うーん」

 返事に困って、あかねは携帯電話に顔をうずめた。

 ケネスが過保護なのは本当で……チューブも出来るだけ避けるように言われている。夕方以降になると、大抵はこうして、仕事を少し押してでも迎えに来てくれるのだ。

 嬉しいと言えば嬉しいのだけれど、こうして友人にからかわれると、どうしようもなく恥ずかしくなる。
 それに、結婚歴がどうのという話があった後では、よけいだった。

 気になる、が、もし聞くなら、どんな顔をして聞けばいいというのだろう。佳苗がいれば、余計な気など使わず、ズバッと尋ねてくれるのかもしれないけれど。

 しかし、その佳苗は、

「じゃ、わたしは帰るわね。変な男の人やおじさんに声を掛けられても無視しなきゃダメよ。あなたになにかあったら、わたしきっとケネス君に殺されちゃうわ」
 そう言ってコロコロと笑いながら、地下鉄の駅の方角へ消えていった。