外国にいるとどういうわけか、同じ日本人だというだけの理由で、今までならあまり親しく付き合わなかったタイプの人間とも親密になったりする。
あかねと佳苗もそんなようなもので、年も違うし、性格も正反対なのだが、コーヒーチェーン店のレジの列で偶然出会ってから、ずっと友人として親しくしている。
佳苗は今年三十一歳のキャリア・ウーマン。
日本の大学を中退して世界を目指し、最初はアメリカに渡ったのに、どういう訳か最終的にロンドンに落ち着いたという活動的な才女だった。
そして、そんな彼女は今、一年越しのフィアンセとの結婚式を再来週に控えているのだった。
「佳苗さんすごく綺麗。スタイル良くて羨ましいな」
「あかねちゃん、あなた聞いてた?」
煌びやかなウェディング・ドレスを纏ったまま、佳苗は腰に腕を当てた。もちろん美しいのだが、なかなか迫力があって、あかねはつい一歩下がった。
「マシューってばこれが初婚じゃないのよ。前の結婚は二十五歳の時で、半年しか続かなかったんですって。子供もいないし、わたしも過去の女性関係なんて聞きたくなかったから聞いたことなかったの。それが、ブーン!」
擬音が『ブーン!』なのは、普段英語に染まっているせいだろう。
たぶん、ジャジャーン的な衝撃を表したかったのだと思う。
「最初の結婚は失敗したけど、君となら生涯愛し合っていけると思う、なんてプロポーズされたわけよ。まぁ、昔のことだし、気にしてないけど……」
と言って、佳苗は呆れたように目を回して見せた。
「ケネス君はどうなの?」
「え!」
「結婚歴とか、知ってる? 彼って、確かわたしとマシューと同じ年くらいだったよね。過去に一回や二回そんなことがあっても、おかしくない年じゃない? 彼、結構格好いいし」
「そ、そんなの……聞いたことないから」
あかねは口ごもった。
そんなこと考えたこともなかったし、まだ結婚の二文字が二人の間で話題になったことすらない。もちろん、最初の頃の嘘のプロポーズを除いて、の話だが。
ケネスに結婚歴があるかもしれない?
そんな、はずは、ない……と、思う。しかし、あかねはケネスの過去の女性関係さえほとんど知らないのは事実だった。もう半年以上付き合っているのに、その影を見ることさえない。
そもそも彼は自分の過去の話はあまりしたがらないし、あかねも、相手がしたがらない話をわざわざ根掘り葉掘り聞こうとするタイプではない。
「やだわ」
黙り込んだあかねを見て、佳苗は少し罪悪感のようなものを感じたらしかった。
床まで届くウェディング・ドレスの長いスカートを揺らしながら、自分より背の低いあかねを覗き込むように屈み、肩に手を乗せる。
「怖がらせちゃったらごめんね。ただ、わたしたちは外国にいるわけだし、そういう事もあるから気をつけてねって言いたかっただけなのよ」
「うん……」
「大丈夫よ、どちらにしてもケネス君があかねちゃんにぞっこんなのは火を見るより明らかだしね。今のは、ほら、忘れて。ね?」


