Forgiving~英国人実業家は因習の愛に溺れる~


 そうして、十五分ほど経ったころだろうか。

 ケネスはやっとある程度の落ち着きを取り戻し、書斎部屋の扉を開いて静かにリビングへ出た。なによりもまず、あかねに謝らなければ。
 しかし、そう思って彼女の名を呼んでみても、答えはない。

「アカネ?」

 再び呼んでみても、答えは同様になかった。

 すぐにバスルームやベッドルームを確かめてみたが、彼女の姿はどこにもない……。

 ────っ!

 ケネスは玄関へ向かった。クロークに掛かっていたあかねのコートが消えている。しかし、棚の上の彼女のスマホは手付かずで、そこに置かれたままだった。

「…………っ」

 なんということだ、ケネスは眩暈を感じて片手で頭を押さえた。

 同じことを──母があの頃自分にしたのと同じことを、俺は、あかねにしたのか?

 このひどい雨の夜の中を、彼女は、自分に投げ飛ばされたことのショックで、さ迷い歩いているのか……?

 身体から血の気の引いていくのを感じながら、ケネスは、コートを手に取って素早く羽織った。そのままフラットの階段を駆け降り、正面玄関へ向かと、勢いよく外へ出る。
 しかし、ケネスはそこである事に気がついた。

 彼女が、鍵を持って出て行ったかどうかが分からない。

 エントランスの正面玄関がオートロックになっているお陰で、鍵がなければ建物の中にさえ入れないのだ。
 降りしきる雨を前にしながら、ケネスは建物の前で立ちつくした。