Forgiving~英国人実業家は因習の愛に溺れる~


 二杯目をグラスに注ごうとしたとき、あかねはとうとうソファから立ち上がって、ケネスの前へ来ていた。白くてか細い手が、ケネスの腕に触れる。

「大丈夫? そんなに急いで飲んだら、後が大変でしょう?」

 それは、彼女の思いやりであり、愛情であり、歓迎すべきものだったのろう。
 ケネスはそれが分かっていたし、素直に受け入れるべきだと、頭の奥の理性は納得している。

(雨だ──だからだ)

 目下には、白いカシミアのセーターに身を包んだあかねが、瞳を揺らしながらケネスを見つめていた。まるで、無垢を象徴し、それを体現したような清純さが、彼女にはある。
 この夜も同様だった。

 普段なら、それが愛しくてたまらないのだ。しかし、この嵐のような雨の夜、ケネスの逆鱗に触れたのは正に、あかねのその雰囲気だった。

 彼女の手を振り払うようにして、そのまま二杯目も飲み干す。
 グラスをカウンターに戻すと、ケネスを見上げるあかねの瞳は、明らかに曇っていた。

「なんだい。なにか文句でもあるのか?」

 ケネスは、あかねに対し覚えている限り今までで最も不遜な物言いを、した。

 自覚はしていなかったが、余程不機嫌な顔をしてもいたのだろう。あかねは、ショックというより、怯えるような表情を浮かべていた。

 雨だ。
 雨のせいなんだ。やめろ。

 ケネスはそう自身に言い聞かせ続けたが、気を休めるつもりで飲んだアルコールが頭に回って、逆に自制心を削いでいく。気が付くと、ケネスの手は三杯目を求めてボトルを掴んでいた。

「だめです、そんなに沢山……っ」

 あかねが割って入ろうとして、ケネスの手に触れた。

 その時だ。
 雷が暗雲を貫くように、衝撃的で、発作的な怒りが、ケネスの中でカッと炸裂した。

(雨のせいだ……)
 そんな心の奥の声にも、耳を貸す時間はなかった。

 気がつくとケネスは、理性の制止にも関わらず、強くあかねの手を振り払っていた。そしてそれは、二人の、男と女の体格差をまざまざと示す結果となったのだ。

 あかねはケネスの腕にはじき飛ばされて、床に倒れた。

「あ……」

 と、小さく声を漏らしながら、あかねはケネスを見上げた。