Forgiving~英国人実業家は因習の愛に溺れる~


「強い雨ですね。急だから、驚いちゃった」

 窓の外へ視線を移したあかねが、そう言って背後のケネスを振り返った。

 同時に、艶やかな髪がさらりと音を立てて揺れて、甘い香りを放つ。
 普段のケネスならここで、彼女の首元に顔を埋めてしまいたいところだ。あかね自身もそれを予想していたのか、振り向きながら少し肩をすくめてみせる。

 そんな仕草も一々が可愛らしい。
 しかし、ケネスはその時、湧き上がる愛情が、急に苛立ちにすり替えられるのを感じた。

 まるでカードを切るように、感情がスライドするのだ。
 原因は分かっている──雨だ。

 分かってはいるが、しかし、それを制御できるかどうかは、また別の問題だった。

「ああ」
 短く答えて、ケネスは、あかねを抱いていた腕をするりと解いた。

 ケネスは、ぱちくりと瞳を瞬くあかねをソファに残して立ち上がると、そのままキッチンのカウンターへ向かった。

 そこには上部に備え付けられた木製の棚があり、いくつかアルコール類の瓶が置かれている。あまり深酒をするタイプではないが、人並み程度には嗜むケネスだ。
 テネシーをショットグラスに移すと、それを一気に飲み干した。

「ケン……?」
 あかねが、不安そうな表情を浮かべながら、ソファから振り返ってこちらを見ている。

 ケネスは再び眉をしかめた。
 雨だ──雨、特に、嵐のような降り方をする、強い雨。