「おはよう、あかねちゃん。朝早いところをごめんなさいね」
「いえっ、鈴木さんこそ……早くからご苦労様です」
社長とその秘書のもの、という感じの会話ではない。
しかし、これは軽蔑だとか、彼女があかねを軽んじているからだという訳ではなく。
ただ、鈴木はあかねの父が存命だった頃からの知り合いなので、当時の癖がそのまま残っているだけだ。しかし今朝に限って、この秘書はなぜか軽く興奮した様子で、顔を上気させていた。
「実は、もう下にお客様が見えているの。アポイントもなく急にいらっしゃったんだけど、あかねちゃんに会いたいって言うの。心当たりあるかしら? 外国の方よ。イギリス人ですって」
「え!?」
あかねは音を立てて椅子から立ち上がった。
そのあかねらしからぬ動向に、秘書はまた好奇心旺盛な目を輝かせる。
「おまけに、あかねちゃんだけじゃなく、役員の方も手漉きだったら出てきてくれないか、なんて言われちゃったのよ。とりあえず三島さんが捕まったから呼んでおいたわ。凄く礼儀正しい感じの男性だったから、変な人ではないと思うのだけど……名刺もきちんとしていたし。ケネス・リッターさんと仰るそうよ」
「はあ……」
「一階の応接室にお通ししておきましたから」
「分かりました、すぐ、行きます」
目を見開いたままこくこくと頷くあかねに、応援するような笑顔だけ残して、鈴木は足早に部屋を後にした。


