あかねは言葉を失った。
ケネスの台詞と、少し子供っぽい真剣な眼差し。
「言葉は無くても……なんて嘘だ。微笑むだけじゃ分からない」
「…………」
「そうやって不安に思っていたなら、それも言ってくれなければ分からないんだ。俺は以心伝心とやらが出来るほど深層な人間じゃない」
「…………」
「ほら、今もそうやって黙る。分かってくれって? 無理だよ、喋ってくれなければ分からない。でも話し合えば分かり合える筈だ。それを待ってたんだ」
──待っていたというなら、黙っていたのはケネスだって同じだ。
少しだけ、あかねはそう思ったけれど、泣き笑いするに止とどめた。
「……ごめんなさい」
小さな声で謝ると、ケネスはあかねの肩を抱いて、首を横に振った。
「謝る事じゃない。でも、他に言うことがある。どうだい?」
あかねはそのまま、ケネスの胸に顔を寄せた。
そして彼を見上げる──この人はもう、あの頃の白馬の王子様ではない。血と汗が通った生身の人間で、実は少し子供っぽくて、かなり意地っ張りな一人の青年だ。
いつもならここで微笑むだけだけれど、一言。
そうだ、ケネスの言うとおり。ここではきちんと言葉にしなくてはいけない。そんな違いを、あかねは忘れていたのだ。
「I love you - like this?」
あかねは恥ずかしさもあって、照れ笑いしながら、震えるような小声で言った。しかしケネスは満足だったようだ。あかねの肩にまわしていた手に力を入れる。
そして
「Yes, and me too, I love you」
そう、あかねの耳元に囁いた。あかねは微笑んで、もう一度繰り返す。
「I love you, Ken」
「Good. Let's make some practices on the way back home, shall we?」
冬の初めのロンドン。
灰色の空の下、肩を寄せ合うある一組の恋人たちが、互いの愛を囁きながらハイド・パークの歩道をゆっくり歩いていた。
少しずつ歩み寄って、理解して、共に生きる道を模索しながら。


