Forgiving~英国人実業家は因習の愛に溺れる~


 傍の街路樹から、小鳥が数羽飛び立った。ケネスの声のせいか、なにかのお約束か。
 あかねの零れかけそうになっていた涙が引く。

 ケネスは続けた。

「日本でどうなのかは知らない。でも、この言葉はお互いに言い合うものだ。違うか? 俺が言わないのは、アカネが言わないからだ。違うというなら言ってくれ、アカネが最後に俺を愛していると言ったのはいつか」

 そう、早口で巻くし立てたケネスに、あかねは両瞼を大きく開いた。
 最後にあかねがケネスに愛していると言ったとき……?

(…………あ)

 ない、のだ。
 そう……いつだって受け身だった。

 いつも受け入れるだけで、自分から『それ』を告白した記憶は、ない。

「おまけに少し目を離したら知らない男と楽しく談話中、ときた。こっちは警察を呼ぼうかとさえ思っていた時にね。こんな状態でそんな台詞は、言えない」

 ケネスの口調はすでに開き直った者のそれ、だった。

「あの頃、ああやって毎日言えたのは、それが必要だったからだ。例えアカネから返ってくる物がなにもなくても。でも今の俺たちはもう対等な筈だ。俺が愛していると言ったら、俺はアカネからも同じ言葉が欲しい。それを、お前はただ微笑むだけだ。こっちとしてはどう思われているのか分からなくなる。同情だと言うなら、そう思ってたのは俺の方だ。だから止めたんだ」