最初の数日は、あかねも気が付かなかった。
久しぶりに来たロンドンを見て回るのも楽しかったし、少し浮かれていたこともあって、冷静に考える余裕がなかったのだ。
しかし一週間経った今、見るものは一通り見て周り 、生活のパターンも覚え始め、あかねはやっと状況が正しく自覚できるようになってきていた。
そうなってくると見えてくる別のものがある──それが、ケネスの態度の変化だった。
それは確かに、最初からケネスに言われていたことではあった。
『あの頃』のロマンチックなケネスを期待してはいけない、と。あかねに嘘の求愛をしていた頃の、優しく甘かったばかりのケネスを。
あの頃。
ケネスのあかねに対する愛の告白は、誇張ではなく言葉の隅々に溢れていた。繰り返される甘い言葉に、あれが嘘だったと分かった今でも、すくわれそうになる。
それがここに来て以来ピタリと止んでしまったのだ。
紳士的な態度は相変わらずだったし、とても大事にはしてもらっている。
懐が寂しいと言っていたケネスだが、それも今までと比べれば……という比較の中での話だったようだ。西ロンドンの端、高級住宅地の中にあるケネスのフラットは日本人のあかねには大きすぎるくらいで、週に一度家政婦が掃除にやって来ている。
あかねは溜息を吐いて、すでに切れてしまった携帯をもう一度見つめた。
(どうして……?)
そんな筈はない、と思っていても。
一度は裏切られた心の傷が、あかねを半信半疑にさせる。
(本当は、ただの罪滅ぼしだったの……?)


