『あの』再会からすぐ、あかねはケネスに連れられてロンドンに来た。
それが約一週間前。
初めての海外ではないし、ロンドンはあかねにとって二度目になる。
日常的な英語にそれほど不自由しないこともあって、観光客的な興奮は少なかったが、日本人のあかねにとってここはやはり異国だ。そ
れでもあまり疎外感を感じさせないのが、ロンドンという大都会の特徴だろうか。
あかねは手元にあるスマホに視線を落とした。
(今掛けても……大丈夫かな)
カウンターの高い椅子を持て余しながら、あかねはしばらく画面をじっと見つめていた。数秒後、やっと決心をして通話ボタンを押す。
数回の呼び出し音の後──
『Hello, 』
低い声が響いた。
「あ……っ、と」
咄嗟に言葉が続かず、あかねは携帯に向かって妙な声を漏らす。
受話器の先のケネスが先に答えた。
『アカネ? 今どこから掛けてる?』
「えっと、仕事場の近くのカフェからです。もしかしたらお昼、一緒に食べられるかなって思って……」
『今、会議中なんだ。悪いが後10分経ったら折り返し電話する。いいね』
「は、はい」
『悪い、じゃあ』
というと、通話はケネスの方からすぐに切れてしまった。ツーツーと無機質な機械音がそれに続く。
「あ……」
また同じ声が漏れた。しかし今度はずっと落ち込んだトーンで。


