その夢はまるで、風が運んできたように穏やかで、自然に、ケネスの脳裏に描かれた。
場面はどこか公園の様な場所で……母親が出てきた。自分は、まだ少年だ。
いや、少年の自分を、今の自分が眺めているような感じだろうか。
『ねえ、ケン。聞いて、私はあの人が好きだったの、とても』
──あぁ、知っているよ、母さん。だからあなたは壊れてしまったんだ。だからあなたは俺を傷つけ始めた。
『でもね、貴方のことも愛していたの。これは本当よ』
──それも知ってる。だからこそ始めたんだ、あの……復讐劇を。そうすればあなたも、少しは救われるかと思った。
幼い自分が、母親に答えている。しかしその答えは今の自分のものだ。
ケネスは彼らふたりの姿を静かに眺めていた。
『それで傷付いたのね』
母は優しく言った。少年の自分は答えない。
なにか言いたそうに口を横に引き結ぶ。そしてポツリと呟いた。
──違う、傷ついたのは俺じゃない。アカネの方だ。俺が傷つけた。
『あの子が好き?』
キャサリーンの弾んだ声に、少年のケネスはまた一時沈黙する。やがてなんともいえないはにかんだ笑顔を見せて、なにも言わずに頷いた。
『じゃあ、目を開けてごらんなさい』
それはまるで天国から聞こえてくるような、清清しい声だった。
正に母親の、子に対する、甘くて安らかな声。
『今まで傷つけてしまって、ごめんね、わたしのケネス。あんなつもりではなかったの。でももう、貴方は自由よ。幸せになって。これは、わたしからの最後の贈り物』
そんな母の声に、少年のケネスは答えなかった。
ただ一筋だけ涙を流し、視界から消えてゆく母親を黙って見送る。最後にまた、彼女の声が響いた。
『目を、開けてごらんなさい──』


