Forgiving~英国人実業家は因習の愛に溺れる~



 あかねはまず、二人が最初のキスを交わした公園に来ていた。

 『あの』休憩所を探す──あの夜は雨で、しかも突然の雷とあって、慌てていて、正確な場所を覚えていたなったのだ。しばらく公園をうろうろすると、やっと、それらしき姿が目に入る。あかねは息を呑んだ。

 ──この数ヶ月、ずっと避けていた場所だ。

 ケネスとの思い出が詰まった場所はどこも、ずっと行けないでいた。

 あかねはベンチと、それを保護する屋根と柱を眺めた。
 コンクリート製だが、アンティーク調のデザインの、なかなか素敵な一角だった。自分達はここで最初にキスを交わしたのだ……そう思うと嬉しいような、逆に切ないような、複雑な気分になる。

 しかし休憩所は無人だった。
 時々通行人が、ベンチの前で立ち尽くすあかねを不思議そうな目で見てくる。

(い、いけないっ、時間がないんだから……)

 ケネスは明日の夕方には発つと行っていた。
 という事は、それまでに会えなければ、次にいつ会えるか分からない。こんな所でぼぉっと思い出に浸っている時間はないのだと、あかねは自分に言い聞かせて、その場を後にした。

 次に、二人が初めて逢った場所に。

 その次はなぜか、二人が初めて夕食を共にしたあのレストラン。

 どこここを回り、一時間以上が経ち、仕事用のヒール靴を履いた足が痛み出したころ、あかねはだんだんと不安になってきた。

(やっぱり、ホテルで待っていた方が良かった……?)
 だいたい、どうしてこんな場所にケネスが居ると思ったのだろう。

 なにか仕事の用事で外に出ただけかもしれないし、そもそも、ケネスがあかねの為に日本に戻ってきたのだという確証はないのだ。三島の口調に、あかねが勝手にそう解釈しただけで。

 あかねは下を向いて、スカートの裾をきゅっと掴むと、唇を噛んだ。

(でも、もう一回だけ……)

 理由を聞かれたら、説明できない。
 けれどその時、あかねは、なぜか『あそこ』へ戻らなければならないような気がしたのだ。あそこ。二人が初めて口付けを交わした、あの場所へ。