Forgiving~英国人実業家は因習の愛に溺れる~


 どこに、彼女はいるだろう。

 汚れたアスファルトの上、人の波に巻かれながら。
 焦って考えを巡らせるも、出てくる答えは平凡なものばかりだった。初めて二人が出逢った場所。初めて食事をした店、共に行った公園、キスを交わしたあの休憩所──。

 自分は意外にもロマンチストだったのかもしれないと、ケネスは自嘲した。

 一体どうして、彼女がそんなところに居るかもしれないなどと思ったのだろう。
 自分が彼女にしたことを思えば、ケネスが思いついた場所はどこも、彼女にとっては思い出したくもない場所になっているかもしれないのだ。
 しかしケネスがあかねを想うとき、浮かんでくるのは、どうしてもそんな場所だけだった。

 そして数時間後。
 結局どこへ行ってみても、あかねの姿はなかった。

 最終的にケネスが戻ってきたのは、二人が初めてキスを交わした、公園の端の休憩所だった。
 あの夜は雨だった──しかし今は抜けるほどの晴天で、小さなベンチとそれを守るように建てられた屋根が、あの夜よりも少し大きく見えた。
 あの時は気が付かなかったが、アイビーの葉が屋根と柱を這うように伝っている。

 ケネスはそれを見つめ、深く溜息を吐くと、ベンチに腰掛けた。

 随分と愚かなことをしている。

 ──自覚はあったが、かといって今更それを正そうという気も、更々ない。

 両腕をひざの上で組み、もう一度溜息を吐いていると、妙な眠気がケネスを襲った。そうだ、ここまでのフライトが騒がしかった為、昨夜はほとんど眠っていない。おまけに時差もある。

 慣れている方だとはいえ、流石に身体が疲れ切っているのを感じた。

 五分だけだと心に決めて、ケネスは目を閉じた。