Forgiving~英国人実業家は因習の愛に溺れる~


「そう、だったんですか……」
 あかねは目を伏せたまま、力なく言った。

「どうしてあんなことを……って、ずっと考えていたんです。私はどんな事を彼にしてしまったんだろうって……理由無くあんな事をする人ではなかったから」
「断定するんだね」
「二ヶ月も傍にいましたから……たとえお芝居の彼でも。隠せないものって、多いでしょう?」
「そうかな」

 いつの間にか三島のカップは空になっていた。
 あかねがお代わりを頼もうかと訊くと、三島は断って、首を横に振った。

「わたしはね、あかねちゃん、彼は本当に君に惹かれていたんじゃないかと思うよ。だから裏から手を回して、結局最後には君が路頭に迷わないようにしたんだ」

 その台詞は、心地良かった。
 そう考えてしまうと楽だ。楽で、少し心が軽くなる。しかし現実的ではない。

 あかねは伏せていた視線を上げて、微笑んだ。

「もういいんです。少なくとも今は……わたし、少し疲れてて」
「今はね。だけど、これを聞いたらどうかな」
「え?」

 三島は立ち上がった。袖を捲って時計を確認する。

「同じホテル、おまけに、無理をとおして同じ部屋まで取ったらしい。仕事の関係で明日の夕方までしか居られないそうだ」
「え、え、み、三島さん、何を言って」
「君は電話番号も住所も、携帯番号まで変わってしまっただろう。わたしはそのままなんでね、わたしの所に掛けてきたよ」

 ガタン! と、あかねは跳ねるように椅子から立ち上がった。両手をテーブルの上に置いたままの格好で。
 三島は、今度は、少し楽しげに微笑んだ。

「行っておいで。君達は幸せになる権利がある。もう罪は清算されたんだ」

 三島の言葉に。あかねは泣き笑い、という感じの顔をした。

 もう、なにを考えていいのかさえはっきりしない。唯一確かなことと言えば、それは、今は彼に会いたくてたまらないということだけだ。

「ありがとうございます、三島さん」

 それだけ言うと、あかねは店を飛び出した。
 三島はそんな彼女の後姿を見送って、勘定を済ますと、自分も外へ出た。

 良く晴れた日だった。若い二人の初めの日とするには、最高の天気だろうと──そんなことを思って、三島は空に向かって微笑んだ。