Forgiving~英国人実業家は因習の愛に溺れる~


 三島はあかねが覚えていたよりも、少し老け込んでてしまった気がした。

 しかし、精悍な瞳と物腰だけはまだまだ健在で、それがあかねを安心させた。新しくあかねが働き出した会社のビルを出てすぐの歩道、二人は久しぶりの挨拶を済ますと、すぐ傍にあった喫茶店に腰を落ち着けた。

「少し痩せてしまったんじゃないかな。大丈夫かい? 慣れない仕事で大変だろう」

 注文が済むと三島はそう切り出した。

「いえ……実は、こっちの方が性に合っているみたいです。わたし、社長なんて柄じゃなかったですから」

 あかねが答えると、三島は低く短く笑って、そうかもしれない──と、頷きながら言った。

「君は正敏とは……君の御父上とは、違うからね」

 何故だろう。
 ただの何気ないやり取りのはずなのに、三島の言葉尻には何か特別な意味があるような感じがした。

 そのまま黙った三島を見て、あかねは三島の今の生活をたずねた。
 それによると三島は現在、一条グループを吸収した企業の中で、それなりに良いポジションを得ているようだった。長年働いてきた愛着のある会社とはもう違うから、昔ほどの情熱はないが、家族を養えるだけの仕事はさせてもらっているよ、と。
 そう落ち着いた声で言って、優しく微笑む。

「どちらにしても、ケネス君が来なかったら遅かれ早かれこうなっていたんだ。いや、もっと悪くなっていただろう」

 三島の口からケネスの名前が出て、あかねは息を呑んだ。伏せがちだった背を伸ばす。

「三島さん、どうして……」
「新しい職場にも慣れきてね、少し時間が出来てきたんだ。いくらか疑問に残っていることがあったんで、調べてみたんだよ。ケネス君について――知りたいかい?」
「…………」

 あかねが何も返せないでいると、三島はそれを肯定と受け取ったのか、それともどちらにしても話すつもりだったのか、ゆっくりと語り出した。