Forgiving~英国人実業家は因習の愛に溺れる~

I kneel before you and ask for forgive.
In the times of sorrow and grief, this love'd be stronger, and will survive.


 社長室に取り残されたあかねは、しばらく無言で、うつろに机の上を眺めていた。

 気が付くと机の上に広げてあった書類に、ぽつりぽつりと水滴が落ちる。
 次々と増えていく小さな水の跡に、あかねはやっと、自分が泣いているのだということに気が付いた。

「あ……っ」

 慌てて両手を口元に当てても、嗚咽は簡単に指と指の間をすり抜ける。
 失望した、と。

 それがケネスが融資を切った理由だと、三島は言った。

 何故、と理由を考えるより前に、罪悪感と恐怖に飲み込まれる。
 たった昨夜──まだ温もりさえ肌に残っているくらいに近い時間、二人はまだ一緒に過ごしていたのに。幸せだった。そしてケネスも、幸せそうに見えた。

 ただ時々見せる、あの寂しそうな笑顔だけが心に引っかかったけれど、それ以外は本当にただ全てが順調で、幸せで……

(わたしが……勘違いしてたの……?)

 ──なにを。そして、どこから。

 考えようとすると、それだけで息苦しくなる。
 あかねは弾かれたように椅子を立ち、上着を掴むと外へ飛び出した。