それが三島の唐突な質問だった。もしこの質問が秘書の鈴木からだったら、何か色っぽいことを勘ぐってからかわれているだけだと思っただろう。
しかし三島はそういうタイプではない。あかねは首をかしげた。
「いえ、あの、特には……どうしたんですか?」
それは嘘だ。
小さな嘘。
しかしあかねには一々全ての事情を三島に説明する必要はないように思えた。彼は勘がいい。言葉で説明しなくても少し匂わせば、大体のことは理解してくれるのが常だった。
しかしあかねの予想とは裏腹に、三島は真剣な表情を崩さなかった。
そして、慎重な感じで話し始める。
「ケネス君の融資のお陰で、うちも大分軌道に乗りかけている。まだ二ヶ月目だが、ある程度利益も出るようになったし、決算への目処めども立ってきた。ビジネスとして見放される理由は無いように思えるんだが……」
「……三島さん?」
「逆に、今ここで彼に見放されると私達には致命的だ。逆戻りどころか、もっと酷くなる怖れがある」
三島の言葉に、あかねは夢から覚めるような感覚に襲われる。
まだ具体的な説明は無いが、何か深刻な事情が──何かとても悪い事が、起こったのが明らかだったからだ。しかしあかねが口を開こうとする前に、三島は身を乗り出して告白した。
「今朝、突然ケネス君から会社に連絡があったんだ。融資を打ち切ると。かなり一方的な感じだったらしい。彼が関わっていたうちとのプロジェクトも今直ぐ破棄にする、と──」
「な……っ」
あかねは息を呑んだ。三島の言葉を、理解しきれずに。
「そんな、筈は……昨夜も何も言われなかったですし、なにも……」
しかし三島の顔を見れば、彼が冗談を言っている訳でないのはすぐに分かる。
ケネスが突然融資を切った?
あり得ない、そんな馬鹿な。
昨夜ケネスとあかねは共に過ごした。それは幸せで甘い時間を、共に。
朝方あかねが目を覚ますとケネスはすでにどこかへ出た後だったが、枕元に小さなメモが残されていて、そこには『先に仕事に出てくる。昨夜は素晴らしかった』と書かれていて、最期に彼の名前が記してあった。
「きっと何かの間違えです。今直ぐ彼に連絡しますから、待っていて下さい」
あかねはそう言って、素早くスマホに手を伸ばした。この二ヶ月、彼はどんなに短くても毎日メッセージをよこして来たし、あかねも、食事を奢られた次の日の朝には必ず礼の電話を掛けていた。
しかし
「無駄だよ」
三島は低く、同情のこもった声で言った。


