The rain falls gently by then.
キスから離れると、あかねは淡い溜息を漏らした。
夢から覚めたばかりのように、瞼をうっすらと開いて、焦点のはっきりしない視線でケネスの輪郭を追う。
彼の視線もまた、あかねの存在を確かめるように離れなかった。
ぽたぽたと二人の間に滴る雨水。濡れた服から伝わる体温。混ざり合う息。
「…………」
言葉は、なかった。
あるいは何か言おうとしたけれど、声にならなかった、というべきかもしれない。
ただ今は、こうして彼の体温を、香りを、感じられることが愛しくて。ケネスが自分を愛おしそうな瞳で見てくれることが、くすぐったくて、嬉しい。
それがあかねの心の中だった。他は何も目に入らない。恋に落ちた瞬間の、愛を受け入れた瞬間の、盲目。
ゆっくりとあかねの背に回されたケネスの腕に合わせて、あかねも、彼の大きな背へ手を這わせた。
弱くなりつつも振り続ける雨を背景に、この夜が永遠に続けばいいと──叶うはずのない夢を、願う。
結局、その夜の雨は一晩中続いた。
降りが弱くなった頃合を見はかって、二人はまた走り出すと通りでタクシーを拾い、ケネスの滞在しているホテルへと向かった。


