Forgiving~英国人実業家は因習の愛に溺れる~


 はぁ、はぁ……と荒い呼吸を繰り返し始めたと同時に、ポツリと冷たい水滴が腕に当たったの感じて、空を見上げる。すると、今度はそれが頬にも数滴落ちてきた。

 雨だ──。
 そう考える間もないままに、遠くの空に閃光が走った。

 稲妻と共に雷鳴が響き渡る。
 空気をつんざくような音があたりに轟いた。

「きゃあ!」

 あかねが短い悲鳴を上げて身体を縮めると、ケネスが振り返る。
 そして彼は何かを言おうと口を開きかけた──その時だ。もう一度、しかしもっと早く近く、雷鳴が響いた。

 小雨に思えた雨が強く襲いかかるように降り始める。夜の雨に濡れた公園の歩道が、電灯の灯りを反射してキラキラと光り、あっという間にいくつもの水たまりを作っていく。

「失礼」
 と、短く断って、ケネスはあかねを抱き寄せると、自らのスーツの中にあかねをすっぽりと包み込んだ。

 嗅いだことのない香りと、感じたことのない鼓動が急に、シャツ一枚を通しただけの距離に突きつけられる。
 あかねは動揺して一瞬我を失いかけた。

 つい、ケネスの胸元から逃げようともがいたのだ。けれど、それは彼の腕には通用しない。あかねの抵抗など感じもしないという風に、強く抱きとめて放さなかった。

「あ……」

 それはまるで、今のあかねの心を象徴するようでもあった。
 突然。
 救われて、捕まえられて。最初は戸惑ったのに、気が付くと離れられなくなっているのは、自分の方で──。