(好き、なのかな)
(うん……好き)
あかねの心は、明らかにケネスに揺れている。
優しくて紳士的で、知的なのに飾らない。
断る理由を──好きになれない理由を、考える方が難しい。ケネスはそんな男だった。少なくともあかねに対してはそうだ。
しかし、あかねの心を本当に捕らえているのは、ケネスの口から紡がれるお世辞や甘い愛の言葉の類ではなく、彼が時々見せる、憂いを含んだ少し切ない笑顔だった。
時折見られるその表情が、なぜかあかねの胸に苦しいほど響く。
普段、ケネスが見せる穏やかな表情や笑顔は、彼の紳士的な態度から来る儀礼っぽいもののような気がするのだ。
しかし、あかねを見つめている時に時折、ふと見せる寂しげな笑顔が、どうしようもなくあかねの心をとらえて放さなかった。
それは……恋と、呼んでいいのだろう。
そう思っている。
ただ、その想いを受け入れようと考える時どうしても、理由の分からない胸騒ぎがして、あかねを不安にさせた。
なぜだろう、どうして。
不安になる理由などないはずなのに。それほど、順調で確かで、夢のような恋なのに……


