I must forget this pointless grief. I. Just. Must.


「あかねちゃん、なんだか綺麗になったんじゃない?」

 悪戯っぽい、何かを言葉の裏に含んだような口調で、秘書の鈴木はあかねの机に書類を置きながらそう言った。あかねは机から顔を上げて、「え」 と、少し呆けた声を漏らす。
 鈴木はそれを見てますます可笑しそうに口の端を上げた。

「ケネス氏とは上手く行ってる訳ね? あれからもう二ヶ月かしら?」
「鈴木さんってば、もう、わたし達まだそういうのじゃないですから……」
「『わたし達』、『まだ』。うーん、聞き捨てならない感じだわ!」
「す、鈴木さんっ」

 慌てながら桃色に頬を染めていくあかねに、鈴木は満足そうな笑顔を見せて部屋から出て行った。
 一人その場に残されたあかねは、朝から突然の嵐に襲われたような気分で、しばらく鈴木が出て行った扉の内側をぼぉっと眺めていた。

 そして、気が付くと頭の中では、ケネスと共に過ごしたこの二ヵ月の記憶がぐるぐると踊っているのだ。
 確かにケネスとあかねはまだ、二ヵ月経った今でも、俗に言うステディーな関係ではなかった──しかし、恋人や親友同士がするような親しい話もするようになったし、別れ際にはまた当然のように、次に会う約束をどちらからともなくする。

 あとはもう時間の問題だと……言っていえなくはなかった。